座談会:50代・役職定年を迎えたその時

■はじめに

50代で役職定年を迎えるというのは、単に肩書きが変わるだけでなく、働き方・人生設計・自分の価値観そのものを見つめ直すタイミングでもあります。

今回の座談会は、「同じ立場にいる他の人は、どんなことを考えているのか?」「これから何を決め、どう動こうとしているのか?」という素朴な疑問をきっかけに企画しました。

再雇用、転職、起業、地域活動…さまざまな立場や価値観を持った5人が、率直に語り合った内容をそのまま記録しています。

読んでくださる方が、自分のこれからを考えるヒントや安心につながれば幸いです。

参加頂いた方々(仮名)

 ● 田中さん(57歳/元営業部長/現在:継続勤務)

 ● 鈴木さん(59歳/元人事課長/現在:フリーランス志望)

 ● 斉藤さん(55歳/元技術部マネージャー/現在:転職活動中)

 ● 中村さん(60歳/元経営企画部長/現在:NPO活動中)

 ● 吉田さん(56歳/元総務課長/現在:起業準備中)

■テーマ1:真っ先に考えたのはどんなことでしたか?

田中: 真っ先に思ったのは、「ああ、肩書きがなくなるんだな」という寂しさでしたね。名刺から部長の肩書きが消えた瞬間、自分の存在まで薄れるような、そんな感覚がありました。

鈴木: 田中さん、それ、わかります。私は「この先の時間、何に使えばいいのか?」っていう漠然とした不安がありました。自由なはずなのに、予定のないカレンダーを見て焦りを感じたというか。

斉藤: 私は逆に「このまま会社にいても、成長はないな」と思ってしまったんです。技術系の仕事でしたが、若い人が主役になる中で、自分はこのままフェードアウトするだけなのか、と。

中村: それぞれ違う感じですね。私の場合、「これからは好きなことに時間を使おう」と思ったんです。給与は下がったけど、地域活動で人とつながれるのが嬉しくて。

吉田: 私は、「会社の肩書きを取ったら、自分には何が残るんだろう?」と強烈に考えさせられました。だからこそ、自分の名刺を作ってみたんです。“吉田商会”って(笑)。そしたら意外と周りから反応もあって、少し前向きになれましたね。

斉藤: なるほど。みんなそれぞれ違うけど、共通してるのは「次の軸」を探してたってことかもしれないね。

鈴木: そうですね。ただ休みたいわけでもないし、でも何をしていいかも分からない。この“空白”をどう埋めるかが、すごく難しい。

中村: 働くことは生活のためでもあるけど、やっぱり“役割”が欲しいんですよ。誰かに必要とされる感覚というか。

吉田: そうそう、仕事って結局「誰のためにやってるか」なんですよね。だから、肩書きがなくなっても、誰かの役に立つ場を自分で作りたいって思ったのが起業のきっかけでした。

田中: 僕も同じようなことを地域で感じてますよ。会社の外にも、“自分の存在を感じられる場所”って、探せばあるんだなって思いました。

■テーマ2:資産のことは考えましたか(定年以降の見通し)?

田中: 年金と貯金でなんとかなるかとは思ってるけど、65歳からじゃ遅い。60歳からの5年間の生活資金は正直気になります。

鈴木: 私もそこがネックで、今まさにファイナンシャルプランナーに相談してるところです。運用っていっても今さら冒険もしたくないし…。

斉藤: 私も退職金の使い方を見直してます。生活はギリギリ成り立つけど、子どもの教育費が残っててね。

中村: 収入は減ったけど、妻と話し合って生活レベルを下げてバランスを取ってます。年金頼みじゃなくて、小さな収入源をいくつか作る方向で考えてます。

吉田: 起業準備で資金は少し使ってますが、小さく始めるのでそれほど不安はありません。売上がゼロでも半年は持つようにしています。

■テーマ3:働き方を変えることを考えましたか?それに対する抵抗はありましたか?

鈴木:正直、最初はすごく抵抗がありましたよ。会社員しかやってこなかったから、働き方を変えるって、未知の世界に飛び込むようなもので。

田中:僕は逆に、変えたくないって思ってしまった。慣れてる環境で、できる範囲の仕事を続けるのが一番楽だし、安全だと思ったからね。

斉藤:でも田中さん、その“安全”って、本当に続くと思います?私もそう思ってたけど、職場の空気がどんどん若返って、自然と居づらくなって…。

中村:私は60を超えてから、地域活動を始めました。最初は不安もありましたけど、意外と歓迎されて、自分が役立てることがあるんだって気づけたんですよ。

吉田:私も「失敗したらどうしよう」とか「続けられるかな」とかいろいろ悩みました。でも、小さく始めて、だんだん形にしていけばいいって分かってから、気持ちがラクになりました。

田中:なるほど…。僕も今のままでいいとは思ってないけど、どう始めればいいかがわからなくて。怖いって気持ちの方が先に来ちゃうんだよね。

鈴木:そこですよね。私も、相談できる相手がいないっていうのが一番の壁でした。会社でも家庭でも、本音で話せる相手って意外と少ないんですよ。

中村:だからこそ、同じような立場の人とつながるのって大事だと思います。地域に出てみて、そう感じました。

吉田:「働き方を変える」って、大げさなことじゃなくて、「一歩踏み出す」だけでも全然違う。そんな気がしてます。

斉藤:その“一歩”のきっかけを誰かと話せるだけでも、随分前に進める気がしますね。

■テーマ4:何かしら結論は出ましたか(または思案中)?

斉藤:僕は今、転職活動をしながら、並行して副業や独立の可能性も探ってます。来年の春までには結論を出したいとは思ってるんですけど…正直まだ迷ってますね。

田中:僕も結論は出しきれてないなあ。再雇用で働いてるけど、このまま65歳で終わるのか、それとも何か副業っぽいことをするのか…。そろそろ決めなきゃいけないとは思ってるんだけどね。

鈴木:私は個人での活動に徐々にシフトしてる最中。ライティングとか、人事経験を活かしたキャリア講座なんかをやってみてて、60歳までにある程度の形にしたいなと。

吉田:私は起業するって決めたので、もう走り出しました。とはいえ、まだ収益が安定してるわけじゃないから、軌道に乗せるまでは試行錯誤ですね。

中村:僕は収入にはこだわらず、地域活動をライフワークにするって決めました。妻と話し合って生活費も見直して、今は心が安定してます。

斉藤:皆さん、ちゃんと方向が見えてるのがすごいです。僕は「仕事を選ぶ」のか、「生き方を選ぶ」のか、まだどっちを大事にするか揺れてて…。

鈴木:それ、すごくわかりますよ。キャリアを続けるってことと、人生を充実させるってこと、必ずしも同じじゃないから。

吉田:でも、悩みながらでも何か始めてみると、意外と道って開けるものですよ。私も最初はぼんやりしてましたし。

中村:そうそう、「やってみる」っていう選択も立派な決断だと思います。結論を出す=完璧に計画ができてる、じゃなくてもいいんじゃないかなって。

田中:それ、勇気もらえるな…。焦らず、でも止まらずに動いてみる。そういうスタンスで行こうかな。

■テーマ5:誰に相談しましたか(またはしたいですか)?

吉田:僕は正直、「誰に相談していいのか分からなかった」っていうのが最初の壁でした。ビジネスの相談って、元の同僚にもしづらいし、家族に言っても「それ本当にできるの?」っていう反応で…。結局、自分で調べて、セミナーとか起業支援窓口を見つけていった感じです。

鈴木:私も似たようなもんですよ。人事をやってたから「相談される側」だったけど、いざ自分のこととなると、全然見えないんですよね。キャリアのプロであっても、自分の進路は客観的に見られない。FPにはお金の相談はしましたけど、働き方の話となると…言葉に詰まりました。

斉藤:私もエージェントには話を聞いたけど、あくまで「転職市場」の話なんですよね。そこから外れると、急に情報もアドバイスもなくなる。「起業してみたら?」とか言われても、ノウハウはくれないし、そもそも合ってるのかどうかさえわからない。

中村:私は運良く、地域の活動に参加して、いろんな人と出会えたんです。その中には定年後に別のキャリアを歩んでる人もいて、「お金のためじゃなくても、働く意味はあるんだな」って話をよくしました。相談というより、“語れる場所”があるのが大きかったですね。

田中:僕はむしろ、誰にも相談してなかったことが今さら怖いなと思ってます。同僚に弱音は吐けなかったし、家でも「もう一回り頑張ってくるよ」って言っちゃってる。最近になって、こうして皆さんと話せる機会があって、「あ、自分だけじゃないんだな」って、ホッとしてるんです。

吉田:それ、すごくわかります。起業準備中って孤独なんですよ。自分の選択が正しいのかもわからずに進む感覚。でも、こうして同じような年齢や立場の人と話すと、「ちゃんと悩んでいいんだ」って思える。

鈴木:だから、相談って“答えをもらうこと”じゃなくて、“一緒に考えてくれる人と出会うこと”なのかもしれませんね。職場でも家庭でもない、第三の場所が必要だなと感じます。

斉藤:「どこに行けば、そんな人に会えるのか」って思う人も多いと思います。やっぱり、そういう人たちをつなぐ仕組みが必要だし、もっと表に出てきてほしいですよね。

中村:まさに。だから、僕は地域に出ることを勧めたい。情報はもちろん、人との出会いが変化のきっかけになる。相談し合える関係って、自然と生まれるんですよね。

田中:相談できるって、それだけで前に進む力になるんですね…。なんだか、やっとスタート地点に立てた気がしてきました。

■まとめ

5人の座談会から見えてきたのは、役職定年は「終わり」ではなく「再設計の始まり」であるということ。経済的な不安や働き方の迷いは共通していても、向き合い方や一歩の踏み出し方は人それぞれ。そして何より、「相談相手の不在」が大きなハードルになっていることが共通認識となっていました。

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