副業と個人事業の違い ― シニア起業の第一歩として知っておくべきこと

はじめに

50代・60代でセカンドキャリアを考える際、よく出てくる疑問の一つに「副業と個人事業って、何がどう違うの?」というものがあります。副業と個人事業は、いずれも自分で収入を得る手段として考えられますが、実はその制度上の扱い税務上の扱いは大きく異なります。この違いを理解していないと、後々税務署から指摘を受けたり、誤った申告をしてしまうことにもなりかねません。

特に、シニア世代が起業を目指す場合、初期段階で副業から個人事業への移行を検討することが多く、そこでの選択が大きな影響を与えることもあります。ここでは、副業と個人事業の違い、どちらを選ぶべきか、そしてそれぞれに関連する税務や社会保険の問題について、詳しく解説していきます。

副業と個人事業の基本的な違い

副業と個人事業の違いを理解するためには、まずその定義と制度上の扱いを整理することが大切です。

1. 副業の定義

副業とは、主に会社に勤めながら行う活動を指します。例えば、勤務先の業務が終わった後や休日に、アルバイトやフリーランスの仕事をすることが副業に該当します。副業の特徴としては、以下の点が挙げられます。

  ・会社員のままで行う活動:主な収入源は会社から得ており、副収入を得るために副業を行う。

  ・所得の区分:副業で得た収入は、税務上、基本的に雑所得または事業所得として分類されます。

副業における所得が雑所得として分類される場合、例えば、趣味の延長で得た収入や、物品を転売して得た収入が該当します。一方、事業所得として分類される場合は、一定の規模で事業を行い、自己の商売として成立している場合に該当します。

2. 個人事業の定義

個人事業は、税務署に開業届を提出し、正式に「事業主」として認められた形態です。副業とは異なり、主たる収入源を自分の事業から得ることを前提としています。個人事業の特徴としては以下の点があります。

  ・税務署への届け出:開業届を提出し、個人事業主として正式に登録される。

  ・青色申告が可能:事業所得が一定額を超えると、青色申告を行うことができ、税制上のメリットを享受できる(例:65万円の控除)。

  ・事業経営:本業として自分のビジネスを経営し、そこで得た収入が主たるものとなる。

個人事業主は、税務署への届け出を行い、事業活動としての信頼性が高くなるため、経費の計上範囲や税制上の優遇を受けられる点が副業との大きな違いです。


副業と個人事業の違いを具体的に比較

次に、副業と個人事業の違いについて、より具体的な観点から比較してみましょう。

1. 収入の区分と税金

副業と個人事業の最大の違いは、収入の取り扱いとそれに伴う税金の処理です。

 ● 副業(雑所得または事業所得)

  ・副業で得た収入は、原則として雑所得として申告することになります。ただし、規模が大きくなると事業所得として申告することも可能です。

  ・雑所得として申告した場合、給与所得と合算して税額が決まります。そのため、税金の支払いが予想よりも高くなる場合があります。

  ・事業所得として認められる場合、開業届を提出すれば、事業経費を経費として計上することができるため、税制上のメリットが生じます。

 ● 個人事業(事業所得、青色申告)

  ・個人事業主として開業届を出し、事業所得として収入を申告します。この場合、収入がどれだけあっても、一定の条件を満たせば青色申告が可能です。

  ・青色申告を選択すると、最大65万円の控除が受けられるため、税金面での大きなメリットがあります。

  ・さらに、事業経費として計上できる範囲が広く、必要な費用を経費として認められることが多いため、実質的に支払う税金を軽減できる可能性があります。

2. 開業届と社会保険

 ● 副業の場合

  ・副業が本業に影響を与えない限り、社会保険や年金への影響はありません。副業収入が一定額を超えても、基本的には給与所得者としての社会保険料が引かれるため、追加で社会保険料を支払うことはありません。

  ・ただし、給与所得者である場合は、副業の収入が20万円を超える場合、確定申告をする必要があります。

 ● 個人事業の場合

  ・個人事業主として開業届を提出すると、自分で社会保険料を支払う必要が出てきます。自分で健康保険や年金を加入し、納付する必要があるため、その点についても事前に理解しておくことが大切です。

  ・開業後は国民健康保険や国民年金に加入することが基本ですが、サラリーマン時代に加入していた厚生年金や社会保険を引き続き利用する場合、条件を満たせば社会保険に継続加入することも可能です。

3. 経費の範囲

 ● 副業の場合

  ・副業の経費は非常に限定的で、事業に必要な資材や経費を一部申告できますが、税務署が認める範囲は限られています。例えば、物品を購入してそれを売るだけの場合、その商品の仕入れや配送費用などが経費として認められることがありますが、家庭用の電気代や通信費を経費として計上することは基本的に難しいです。

 ● 個人事業の場合

  ・個人事業主として青色申告を行う場合、より広範囲な経費を計上できます。たとえば、自宅を事務所として利用している場合、自宅の一部を事業用として使っていれば、その部分に相当する家賃や光熱費などを経費として申告できます。

4. 経営責任とリスク

 ● 副業の場合

  ・副業であれば、会社員としての収入があるため、リスクが少ないのが特徴です。副業収入が減少しても、本業で安定した収入を得ることができるため、リスクを軽減できます。

 ● 個人事業の場合

  ・個人事業主として自分で全ての責任を負うため、事業の失敗リスクや経営責任はすべて自分に返ってきます。事業の利益が思うように上がらない場合でも、最終的に自分の判断で収支を調整する必要があります。


副業から個人事業への移行

副業から個人事業に移行する際には、いくつかの重要なステップを踏む必要があります。まずは、税務署に開業届を提出し、事業主としての地位を確立します。これにより、事業所得として申告でき、青色申告が可能となり、税制上のメリットを享受できます。

また、事業の規模が大きくなる前に経費をしっかりと計上することで、税金面での負担を軽減することができます。個人事業主としての実務経験が浅い場合でも、専門家に相談することで、税務や経営の基礎をしっかりと学び、安定した事業運営を行うことが可能になります。


まとめ

副業と個人事業は、どちらも自分の収入源として活用できる手段ですが、税務や社会保険、経費の取り扱いなど、実際には大きな違いがあります。特に、個人事業主としての責任や税制面でのメリットを活用したい場合は、早い段階で開業届を提出し、事業としての形を整えていくことが大切です。

「Biz-C」では、シニア層の方々が起業に向けた第一歩を踏み出すための実務情報を提供しています。副業から個人事業への移行を考える方々に向けて、今後も役立つ情報を発信していきますので、ぜひ参考にして、着実に一歩を踏み出してください。

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